2015年7月8日

箱だけ作って中身がない会社


「この前、友達から『あんたの会社って箱ばっかり作るけど中身がないよね。』なんて言われたんだけど、どう思います?」
と、Aは「聞いてくださいよ!」とばかりに会社に対する不満を話し始めた。

某介護事業所に勤務するAは、会社の愚痴を私にぶちまけるのを得意としていた。
私だから話したいのか、私にしか話せないのか、もしくはその両方なのか。
いずれにしても、Aが私に愚痴を言った後は毎回スッキリした表情をしていたので、少なくとも私が愚痴を聞くことでAのストレス解消になっていたことは間違いない。


Aの勤務する会社は、成長段階にある企業の宿命として、社内の一部、特に新規開設した施設において不満が蓄積しており、A以外にも影で不満を漏らしている社員は少なくない。また社外でも、妬(ねた)み半分でAの会社を貶(おとし)めるような噂を耳にするのは一度や二度ではなかったので、Aの耳に入るのも当然だろう。

ただ、Aの友人が言わんとしたことは、Aの勤務する会社が「箱」つまり大規模な入居施設を作り、「中身」つまり介護職などのスタッフや入居者を、四苦八苦しながら集めている様子を揶揄(やゆ)したものだったのだが、Aには申し訳ないと思いながらその友人の言い回し自体には『うまいこと言うじゃないか。』と私は内心感心していた。

確かに入居者(利用者)を確保しなければその施設の賃料だけがかさみ、採算の合わない赤字経営の状態が続くことになるので、それに躍起になるのは営利企業としては当然のことだろう。と同時に、介護保険の報酬は、一定の人員基準をクリアできないと減ることがあるので、新規オープンが重なるとその会社の間接部門は利用者確保のための営業とスタッフ確保のためのリクルートで火の車だ。

おそらく、真っ先に『リスク回避』を考えるタイプの人間なら、そのような事業に手を出さないのだろうが、一部の経営者は、短期間に事業を拡大させ、M&Aを繰り返して、中身がなくても平気な顔で次を見据えている。
経営者が常に前向きでいることは成長のための「必要条件」だが、急成長している企業の経営者が見据えるゴールは、時に天井がないのではないかとさえ思える。


私自身、件のAの愚痴を聞きながらも実はAの愚痴に心から共感する気にもなれなかった。その理由はシンプルだ。Aの言うことにはどこにも前を向いている要素が見当たらない、つまり聞く側も話す側にも楽しいと思える要素が見当たらなかったからだ。

私は、公務員だった両親を見て育ってきたせいか、大きな財を得たいという欲が足りないとよく言われる。その一方ではAの会社の経営者ほど度胸もないが、決して否定する気にもならない。その理由は、

『どんなことが起きても物事を肯定的に捉える』

という私の中で最大の実践哲学において、件の経営者の考え方に共感していたからだと思う。

ただ、ヒトは守るべきものが出来ると価値観が変わるというが、もし私が身近な職場の同僚だった女性と結婚し、3人の子持ちになって、30年ローンで建てた郊外の庭付き一戸建て愛犬のウェルシュ・コーギー付的生活を送っていたなら、また話は違うのだろうかとも思う。

「不惑」と言われる年齢になるまで、私にはそれほど猶予はない。

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