2016年10月22日

10年の営業経験の中でみた真の営業マンとは



営業の仕事を嫌うヒトは多い。

10年間営業職に従事し、時に「トップセールス」と呼ばれて天狗になっていたこともある私だけれど、営業の仕事を心から「好き」だと思ったことは一度もない。

もちろん、売上がうなぎのぼりに上がっている時などは身体の中からアドレナリンが出まくってイケイケドンドンのテンションになるし、そこにインセンティブ(報奨金)がついたりすれば目の色が変わるほど売上額に一喜一憂していたこともある。

それでも。今になって思えば、営業を仕事として捉えると好きではなかったが、相対的に見れば「向いて」はいたのかもしれない。というのも私が独立して気付いたのは、私は何かを「売り込む」という行為自体に嫌悪感を抱いていた訳ではないからだ。

実際、物事を提供する対価として報酬を受け取るという行為を否定してしまったら、それは単なるボランティアでしかない。そしてまた、私はボランティアにしかリアリティーを見出すことが出来ないほど、メンタリティーが枯渇している訳ではない。

ではそもそも営業マンに最も「向いている」ヒトとは一体どんなヒトなのだろうか?

その答えは、先日再会した以前の上司Nさんの話がヒントになるかもしれない。Nさんとは10年以上の付き合いになるが、現時点で私の思う「営業職」の定義付けの中では、「最適」の一類型だからだ。


まず初めに私がNさんと出会うまでの経緯を話そう。

私が営業の仕事に就いた理由は単純だ。自分の腕一つで売上げをたて、利益を上げるという行為が、何となく「カッコよく」みえたからだ。

大学を出て新卒で営業職に就いた私は、商社M社の流通部門に配属され、静岡支店の日用品・雑貨部門を担当することになった。ただ、今だから言うが、自分の力不足を一番の原因とした上で、この会社で配属された部門は「伸びる」要素が殆ど無かった。そして、入社から3年が経ち、支店・部門の統廃合を行ったのを機に私は医療・理化学機器の専門商社A社に転職する。

一方Nさんは、関西の大学を卒業した後静岡に戻り、フリーペーパー制作の仕事を経て、私と出会ったAに転職。

Nさんは、当時から私に対しては一度も怒ったことなどない穏やかな性格なのだが、その仕事ぶりが私とは正反対だった。
まずもって一つの問い合わせや受発注をさばくのに異常に時間がかかる。丁寧すぎるからだ。そして、1000円の仕事と100万円の仕事にかけるウェイトのかけ方が全く同じなので、当然優先順位がつけられない。

ただ、そんなに必要以上に時間がかかっていたら顧客が逃げてしまうだろうと思うのだが、実際はそんなことはなく顧客からは概ね信頼されていた。

なぜ顧客は他へと移らないんだろう。

私は、当時純粋な疑問から顧客のうちの何人かに質問してみた。
『なぜ他に変えないんですか?もっと良い営業マンもいるでしょう?』
そう聞くと、答えは大抵「よく顔を出してくれるから」という当たり障りのない答えが返ってくる。

足で稼ぐタイプだな

私は勝手にそう結論付けていたが、Nさんの売り上げはNさんのマイペースな性格同様、減ることも増えることもなく推移していた。


それから10年以上の時が過ぎ、私を取り巻く環境は大きく変化した。その一方Nさんは、訳あって同業他社に転職はしたものの、顧客や営業スタイルは殆ど変化していない。

よく10年以上も同じことやっていて飽きないですね

私が冗談めかしてそんなことを言うと、本人は『相変わらず机の上は汚いし、売上も若干下降気味だし、煙草もやめられないけれど、まあ何とかやっている』という。

そこで私は、自分では「やっぱりボクは営業向いてないんだよね」と弱音を吐くNさんに対し、私から見たNさんの「強み」を列挙した。そして、こういうヒトこそが10年選手になっても手を抜かず安定しているんだろうなと再確認した次第だ。以下にそれを記す。

1、責任転嫁しない

Nさんは謙虚だ。失敗の原因を責任転嫁せず、必ず自身の失敗として捉えるので必ず内省し、次に繋げることができる。そして何より自分が不器用で苦労している分、弱い人の気持ちや痛みがわかるので、顧客の悩みに心の底から共感することができる。

2、自分に距離を置ける

Nさんはいっぱいいっぱいになることも多いが、それは一度に一つの事しかできないだけで、自分の事だけで手一杯というのとは違う。実は常に自分を客観視している。そしてこれは対人コミュニケーションの場面における一つの本質だ。自分を俯瞰できる人間は、自分の発言が相手に与える影響をイメージすることができるからだ。

3、物事に依存しない

例えばNさんは結構な鉄道マニア(いわゆるテッちゃん)だが、全てを投げうってそこに入れ込むなどということはしない。自身の身の丈をわかっているので「ほどほど」で済ませることができる。
こういった適度な「諦観」は長期的な安定性という意味で非常に大きな「武器」になる。営業職には気まぐれでムラがある性格の方は多いが、一般的に瞬発力と持久力が同時に持ち合わせられないのと同様に、この安定性は営業職の中では稀有な能力だ。

結局、営業に限らないことではあるが、最終的に対ヒトである以上、テクニカルな手法や知識を持っていること自体の重要度は低く、最後にモノをいうのは人間性である。

Nさんの仕事ぶりは、確かに上司としてはあまり尊敬するところはなかったし、今もないかもしれない。

それでも。

Nさんは人生で本当に大切なものは何かっていうのを知ってる気がするんですよね。

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