2016年9月20日

まずヒトの多様性を認めることから始める


社労士/人事コンサルタントを名乗り始めて3年目に入り、毎月新規の中小企業を訪問する中、対企業ではなく対個人のコンサルをすることがある。 

社労士業務の中には、障害年金の支給申請やあっせん申立ての様に対個人を相手にした(広義の)コンサルティングを行うものはあるが、私に依頼のある個人向けコンサルというのは、前職の経験を活かした「キャリアコンサルタント」や個人の強みを引き出す「パーソナルブランディング」のような内容のサービスのことだ。

対組織ではなく対個人

サービスとは言いながらも、私に依頼のある案件は殆どが知人を介した無報酬のものだ。となると必然、事業として企画を練ったり、1年以上かけた準備段階を経て立ち上げたものではないし、そもそも一般的な「カウンセリング」や「コーチング」などとは少し違ったものになる。

それでも。依頼人のこれまで生きてきた背景や労働環境を聞き、それに対して「何らかの」回答や戦略を導き出そうとすれば、こちらの提案・アドバイスも自ずと熱を帯びる。そして、やってみるとやっぱり個人の人生に真剣に向かい合いそこに影響力を行使していく、よりパーソナルで密着したスタイルが自分には向いてるなと思う。


私の行う対個人のコンサルティングは、先に述べたようにカウンセリング・スキルだけでもコーチング・スキルだけでも不十分で、対個人に対してすら時に耳に痛いことを言い、本質を突こうとする、いわば問題解決力が肝だ。そして、もう少し正直に言えば私個人のスキルはカウンセリングもコーチングもどちらも不十分である。

ただ、私個人の考えとしては、呼び方が「トレーナー」だろうが「インストラクター」だろうが「何らかの問題を焙り出し、その解決方法を見つける」という点が共通している以上、それに対して成果を出せるかどうかはコンサルティング・スキルに左右される。

もちろん「傾聴」も大切だ。「承認」も必要だろう。でも私の対個人コンサルで一番大切なのは「きっかけ」を示してあげることだ。そしてヒトは「時間をかけて育成する」のではなく「自ら気付き勝手に育つ」のだ。


そんな事を考えていたら、前職でキャリアコンサルタントをしていた時に、40代の「非常に個性的」な女性に出会ったことを思い出した。名前を仮にKとする。

Kは、登録時の電話対応からしてもどこか「舌足らず」で話が聞き取り辛かった。
そして面接と称して実際に会ってみたら、たった1時間足らずの間にも関わらず私に対して強烈な印象を与えることになった。

まずもってKはパッと見では性別の判断がつかない。そもそも女性ホルモンが著しく欠落しているのか、自ら放棄した結果そうなったのかはわからないが、最近の20代男性によく見かける色白で草食系の塩顔男子の方が、よほど女子力が高そうに見える。

その上、悪いとは思いながらも私が上から下まで嘗め回すように見ていき、視線が足元にまで下がると、私はそのKの履く靴に釘付けになった。着るモノに対してまるで頓着がないのはまだ許容の範囲内だとしても、初めての面接にゴム底の長靴で登場したのは後にも先にもこのKだけだろう。

ただ、Kは決してバカな訳ではなく、ある種の「諦観」のようなモノの表れとして(意図的にせよそうでないにせよ)そのようなスタイルを貫いていたことは間違いない。


例えばKは「ありがとう」という言葉を口にしない。

そう言われてみると確かに「ありがとう」という言葉は、実は普遍的な言葉ではない。感謝を言葉で表さなければ人間関係がギクシャクするような社会では「ありがとう」は必要だろうが、動物の社会ではそんな言葉は存在しないだろうし、また必要もない。

Kはとにかく余分なことを口にしない。何かを隠したり下手に取り繕おうという気もないので見栄やハッタリなど自分を大きく見せるような嘘をつく必要もない。

しかしながらそういった「自分に正直な」性格の持ち主は、日本では往々にして「損をする」ことが多い。そしてそれは、恐らく日本の社会で生きていく上では致命的な「コミュニケーション障害」にもなりうるだろう。

その一方でそれらを取り繕ったところで、人としての本質には大きな違いは無い。
そしておそらくKはそう言った事を心では理解している。結局、個人がどう生きようがそれはヒトそれぞれだ。となればあとはブレークスルーに至る「きっかけ」を示すだけのことだ。


Kとの面接を終えた後、私たちは店の外に出た。
と、スタンド式の灰皿を見つけたので、私はポケットから煙草を出してKに声を掛けた。

『あ、ちょっと一服してからいきますよ。今日はありがとうございました。』

ところが、その時Kは『あー』とか『はー』とか言った相槌は打ったけれど、何だかモジモジしてその場を離れない。

『あ、ひょっとしてKさんも煙草吸います?』

私がマルボロのメンソールを2本引き抜いて片方をKの方に向けると、Kはまた『あー』と声にならない声を発してそれを受け取る。

『「あー」って「ありがとう」って意味なんですか?』

私が冗談めかして言いつつ煙草に火をつけると、Kは苦笑いをしながら言う。

『あー。ありがとう。』

と、今度は二人で声に出して笑った。何だ。いい笑顔ができるじゃないか。

結論。ヒトに優劣は無い。ただ些細なきっかけがあったかどうかの違いがあるだけなのだ。

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