2014年10月24日

星の王子さまとバオバブと不思議なマッサージ師



有名なフランスの童話『星の王子さま』が、実は非常に奥が深い話だというのは、よく知られている。
私も今回10年以上振りに読み返してみて、何やら結構シュールな内容だったんだなぁという感想を持った。私が知らないだけで、童話というのはこういうモノなのかもしれないが、小学生がこれの読書感想文を書いたら、十人十色でとっ散らかった結果になるだろう。


ところで、童話の舞台になったのはモロッコという国だ。アフリカ大陸の北端に位置し、ヨーロッパからも目と鼻の先にある。
地中海に近い北部のアトラス山脈では、冬には雪が積もる程だが、夏は暑く、特に南部の砂漠地帯では、昼間の温度が40度以上になる時もある。


私が最後にモロッコを旅行した時は、8月も終わり頃であったが、まだまだ暑く、また運悪くイスラム教のラマダン(断食)の時期にあたっていた。

そんな中、中部のエッサウィラを出発する際、私は突然ひどい感染性の胃腸炎に見舞われる。
悶絶の末、早朝に南部のアガディールへと辿り着いた時には、私の身体はもはや発熱なのか暑さなのかわからないセルフヒートテック状態であり、頭の中は朦朧としながらも何年か前に訪れた時の記憶を辿り、同じ安宿を何とか見つけ出して転がり込む。

もちろん、その日は意図して断食するまでもなくそのまま泥のように眠り、次の日もお湯を沸かしては砂糖をたっぷり入れたミントティーを飲んで、再び眠るということを繰り返す。

典型的な「しぶり腹」の症状が続き、夢の中でトイレに行ったのか、トイレで寝ていたのか、もはや頭の中がスライム化しながらも、身体は少しずつ浄化されていたようで、日没がその日のラマダンの終わりを告げる頃には、ゲッソリしながらも、何とか立ち上がることが出来るまでには回復していた。

 
頭から水をかぶり部屋の外に出ると、東の空から月が昇ってくるのが見える。
広い中庭でぼんやりと月を眺めた後、何か食べに外に出ようと部屋のカギを閉めた時、ふと隣の部屋から話しかけてくるのが聞こえた。

『ハリラを食べに行くのかい?』

《ハリラ》とはラマダン明けに食べる、ミネストローネのような野菜とマカロニのスープだ。私は、もともとスープが好きな上に、その時はまったく肉を食べる気がしなかったので、《ハリラ》が軽くてちょうどいい気がした。

『そうだね。お腹ピーピーだしハリラがいいね。この辺でどこか食べられる所を知ってる?』

そうして始まった会話は、《ハリラ》がその界隈の食堂ならどこでも食べられることや、私がドアを開けっぱなしでずっと眠りこけているので、その隣人が心配していたことなどに及んだ。また、その彼が南部の海沿いにある小さな田舎町の出身であり、今はフリーのフォトグラファーとして色々な媒体をカメラに収めていることなども、彼は気さくに話してくれた。そして最後に、

『ハリラを食べてゆっくりしたら、オレの部屋に来るといいよ。胃腸が良くなるようにマッサージをしてあげるから。』

と言い、私は特に深く考えずに返事をして外に出ていった。

しかし、ハリラを食べながらふと考える。

その彼は、気さくなナイスガイだった。しかしながら「マッサージ」というのは、世界共通でナンパの常套手段だ。私自身では記憶する限りでは使ったことはないが、考えてみると確かに密室で二人きりになるための口実としては、使い勝手のいい口説き文句である。ただ、現在問題として取り上げられるべきなのは、それが男同士の場合にはどういうことになるのかということだ。

と、そんなことを想像していたら再びお腹がしくしくと痛み始めたので、私は考えがまとまらないままに、いそいそと部屋に戻り、トイレに座りながら、『そもそも「星の王子さま」の話では、地球は何番目の星だったか』などと、とりとめのない事を考えるのであった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

あなたのひと言が励みになります。